ある、リルドラケンの乙女の悲劇

アタイの名前はニワ=ワガ。
冒険者になって、一躍有名人となったムーテスって人に憧れて、商人だった両親を説き伏せて
ようやく冒険者になったのっ。

得意技は自慢の尻尾を使った連続攻撃で、拳を使ったことはあんまりないかなー?
意気揚々と、冒険者ギルドに登録して、さっそく冒険に出た・・・んだけれど、サァ・・・。



ここから先は、ミストキャッスルの内容を含んでいます。
あなたはここから先の文章を読んでもいいし、読まなくてもいい。

















そう、はじめての冒険を終わらせた後だった。
近くに出るというコボルド退治ってことで気楽に退治したあとだったんだけれども、その洞窟の外に出たところで運悪く、オーガどもの人狩りに出会っちゃったんだわ・・・。

本当についてない事ってあるものだと思う。
私は、それから目隠しをされて手枷足枷をはめられ、逃げられなくなった所で霧の都、ミストキャッスルへと連れて来られたんだ。

目隠しを外されるまで、内心はもう終わったと思ったよ?
何せ、蛮族の都と言われて、このまま喰われちゃうんだと思ったもん。
あぁ、せめて一つくらいの恋愛は経験しとけば良かったと後悔してた。いや、それ以外にも後悔はたくさんしてたけどさぁ・・・w

でも、実に意外なことにアタシは奴隷となった。
どうやら、人狩りっていうのは役に立つ奴隷を探して来る連中がメインの仕事だったみたいで、そこはまがりなりにも冒険者として鍛えた身体と技があるし、普通の人よりも価値ってヤツがついたみたい。

あぁ、アタシを捕まえた連中らしい蛮族どもが喜んでる。正直、ムカつくけれどもどうしようもない。
奴隷の証として首輪をつけられた。
ここにたどり着くまでに、蛮族の言葉はわかるようになっていた。一緒につかまった人の中に、蛮族語がわかる人が居たからだ。あの人は真っ先に買われていったけれど、今頃どうなってるんだろ・・・?

実際に競りが始まった。
どんどんと値段が吊り上げられていく。高い値段がつくのは正直嫌な気分だけれども、商人の出としては安くなるよりは精神衛生上はマシに思えるのだから、アレだよねぇ…。

そんなことを思いながらも、会場をみると何人かは蛮族ではなく、人族が混じっていた。皆、腕輪をしている。あれが、名誉蛮族ってヤツかぁ。
蛮族に組して、その証として認められた証明ってことらしいけれどもね。こんなところに住んでたら、そう言う風になったほうが良いってことかなぁ。


あ、競りが終わったみたい。
結局アタシを競った人はその何人かの一人、ドワーフの男だった。
魔法がかけられてて、いつでもアタシの命を奪うことができる首輪の鍵を渡され、正式に所有者がわたったとき、アタシの奴隷生活が始まった。

そう、奴隷生活がはじまったのだった…。
仕事内容は、酒場のウェイトレス。

ぇ?ウェイトレスって、あのウェイトレス?
大きくうなづいて、豪快にわらったドワーフのご主人様。
繊細に編まれたヒゲと、いくつもつけてる装飾品が彼を個性付けている。

そんな彼はさらに続けてきた。そもそも、厳密に言えば奴隷だってすぐにやめられるらしい。
「いいか、えーと名前は?」
アタシはニワ=ワガ。あなたの名前は?
「私はヤムール。この酒場の店主だ。」
ここは酒場の中。案外に広々としたホールで、蛮族は殆ど見かけない。
お客の殆どは、人族で首輪をした人としてない人が半々ってところ。
「以前、ちょっとしたことで上位蛮族に気に入られてな。名誉蛮族になったわけだ。」
そういいながら、こちらに軽いお酒を勧めてくる。本当に、奴隷なのだろうかアタシ?
「不思議そうな顔をしているな?まぁ、これから聞く話を理解すれば、わかってくる。」
そういいながら、店主のヤムールさんは話をしてくれた。

「オレはこの立場を利用して、奴隷という名目で保護をしているんだ。なぜなら、奴隷の証である首輪をしているモノには積極的には危害を蛮族は加えてこない。野良犬が噛み付いてきたりしたら、我々だって殺すかもしれんが、他人の飼い犬とわかるならそこまではしない。いわば、そういうことなんだ。」
そういって、ノドが乾いたのか酒を軽くあおる。
今、店の中には何人かの人族が働いている。この空間だけを見ると、まるで普通の酒場のように思えて、少しだけ安心できた。
「だから、オレはお前がもし奴隷を辞めたいってんなら、いますぐにでも解放してもいい。だが、何も意味無くその首輪は外さないほうがいい。ある意味では、そいつはこの街で生きていくための保険だからな。」
そういって、彼は朗らかな笑みを浮かべた。
「喰っていくためには金が要る。金が要るなら、ここで働いていけ。給金は勿論出す。」
喰っていくためには金が要る。商人の親も同じことを言っていた。でも、アタシはここで暮らす気は無い。
なので、ここから逃げる方法は無いの?
「ほう、ここから逃げる…か。なら、手助けをしてやれんこともないな。おれ自身はもう積極的に逃げる気にはなれんが、そういう気概があるってのなら、助け舟を出してやろう。」
そういって、彼は懐から1000ガメルの包みを取り出し、支度金として渡してくれた。
「いいか、ここから少し離れた所に露天市場がある。そこで蛮族やらに襲われても何とかなるように装備を整えろ。元は冒険者なら、そこはなんとかなるな?」
もちろん!とはいっても、拳闘士のアタシには重い鎧とか分厚い剣なんて高いモノは特にいらない。簡単な鎧と、拳を護るセスタスでもあれば上等だ。そもそも、アタシにはこの尻尾があるし。
「よし、なら装備を整えたあとに追剥小路って場所にいき、メルキオレという男に会え。この街の中の連中が全員一人残らず、蛮族に反感を持たないわけじゃない。そんな連中が集まって作られた反抗組織がいくつかあって、その男は【風の旅団】という組織の一員だ。」
そうか、ならそこの人たちならこの街から逃げ出すための方法も知ってるかもしれないし、少なくともアタシにとっては何かの助けになるわね。
「そういうことだ。」

…商人としての疑問なんだけれど、ここまでしておいてもらってナンだけれどサァ。アタシを競るのにもそこそこお金かかったでしょうに。
それを、支度金まで用意して解放なんて、元手が丸損じゃない?
「そう思うなら、たまには店を手伝ってくれりゃいい。もしくは、外で稼いだ金をここに落としてっておくれ」
そういって、悪戯めいた笑みを浮かべた現・主人。


とにかく、アタシは本質的には自由だということがわかった。なら、ここから生きて出る方法を探すまでよっ!
そう、これは冒険なんだ。冒険者には危険はつきもの。
そのリスクがでかくなっただけだけ。やることは変わりないのよ…っ!

それじゃ、さっそく市場にいって装備を整えなきゃ。ありがとうねっ、ヤムールさん!